2020.09.18 03:12第一章 第十七幕―気晴らし―桜の木に蕾がつき始めた頃、六兵衛に早朝に叩き起されて、風雅は修練場にある小屋に連れてこられた。その中では保彦が模擬戦用の長槍を振り、奏兵衛と弐陽が模擬刀を手に素振りをしていた。二人に気がついた奏兵衛が、汗を布で拭って声をかける。「…あら?風雅じゃない。もう秘密の特訓はいいの?六兵...
2020.09.18 03:00第一章 第十六幕―それぞれの道―露が息を引き取った翌日、簡素的な葬儀が執り行われた。安全をうたっている学院内に火葬場は無く、露がよく訪れていた菜の花畑での土葬に話が纏まった。露の自室から棺が見つかったことで、この時代においては裕福な葬儀が行われていた。風雅もその葬儀に付き添い、棺の近くで項垂れていた。吐いた息が...
2020.09.18 02:59第一章 第十五幕―露―病に伏せてからすっかり痩せこけた露は自室の扉に人気を感じて声をかける。そうすると部屋に土鍋を手にした風雅が入ってきた。眉間に皺を寄せて目をこらす露に対して笑顔の風雅は、露の返事を待たずに近くへ寄った。「…風雅かい?」「はい。俺です。こうして説得に来た回数はもう何度目ですかね。三顧...
2020.09.18 02:59第一章 第十四、五幕―兄ちゃん―壱陽達を見送った後、ふと、正門脇の方に風雅が目をやる。弐陽が手紙を握り潰しながら俯いていた。「…弐陽?」「…また、何も言わないで行くのか。私を置いて学院に来た時も、何も言わずに出て行って。やっと会えたと思ったら私から逃げて逃げて逃げて!こんな置き手紙一つで…くそ、くそ!」「弐陽!...
2020.09.18 02:58第一章 第十四幕―引き継ぎ―紅葉が地面いっぱいに拡がっている中、掃除が憂鬱だなんて呟く六兵衛の隣を歩きながら、早朝に二人は正門へと向かっていた。今日は壱陽が学院を去る日だ。風雅は手土産に選んだおにぎりが包まれている布を両腕で抱え込んでいた。「道中食べてもいいかなと思って多めに作ったは良いけれど、ちょっと作り...
2020.09.18 02:58第一章 第十三幕―違和感―山篭りが終わってから数日、風雅達壱年の授業に幻術の授業が追加された。壱年壱組の生徒達は修練場に集まって体育座りをしている。自身の大きなお腹を軽快に一度叩くと、潔は口を開いた。「ふぉっふぉっ。座学の授業で幻術についても軽く触れて頂いていましたが、本日から本格的に実技形式で学んで貰う...
2020.09.18 02:57第一章 第十二幕―山篭りーその肆―ガサリガサリと音を立てながら、少年達が森の中を駆けていく。秋助が風向きを確認し、安堵の表情を浮かべると全員にその場で停止するように指示を促した。「ふう、ここまで来れば痺れ薬も届かないみたいだ。ありがとなジルボルト。直人のこと抱えてってくれて」「Year!なんのなんの!おやすい御用...
2020.09.18 02:56第一章 第十一幕―山篭りーその参―山伏の寅の姿を捉えた凪斗と弘栄はその場で警戒体制を敷き、腰を落とす。「よお、けったいなもんに乗っとる童。潔から聞いたで。儂の愛玩品匿っとるそうじゃのう」「さあて、何の事だか。それよりも山伏の寅。俺様が目立ってるのは勿論だが…アンタ、周囲も警戒しとくべきなんじゃねえか?」凪斗が拡声...
2020.09.18 02:55第一章 第十幕―山篭りーその弐―「それで秋助先輩。作戦会議ってことは、具体案とかもう既にあったりするんですか?」「ないよ。だからここで他の奴らの動向を探る。山に行くまで四半刻もあるし、半分位は情報収集に使っても罰は当たらないと思うから。お前は右半分を頼む。僕は左半分を見てるから」「承知しました」秋助の言葉で風雅...
2020.09.18 02:54第一章 第九幕―山篭りーその壱―夏真っ只中の暑さで汗が滲む中、朝恒例の大きな起床の笛の音が長屋に響く。食事処の運営や組合の活動。そして普段の勉強で疲れ果てた身体に鞭を打って、背筋を伸ばし軽快に音を鳴らす。そんな風雅のお腹に覆い被さるように寝ている六兵衛は、全身が擦り傷やら保健室での治療跡でぼろぼろになっている。...
2020.09.18 02:53第一章 第八幕―疑問―「風雅、そっちの留め具、しっかり締めといてくれ」「はい。ああ、ここのビスですね」「びすって言うのかそれ。南蛮の火縄銃を解体して出てきたやつを模倣して作ってみたんだが。響きが良いな」(模倣とは言え、海外の物を自作できる凪斗先輩って頭の中どうなってるんだろう…)「それで凪斗先輩、手伝...
2020.09.18 02:53第一章 第七幕―食事処―あれから数日の準備期間を得てから、無事に食事処の運営が開始された。お昼は二種類の日替わり定食を販売し、夜は洋食中心で常設メニューが四つ。夜に風雅が台所に立てる日は、日替わりメニューがそこに追加される形で経営することになった。昼夜問わずご飯とパンは選べる式という所が、元平成人の風雅...